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ハッピー・バースデイ!  <Written By コンバット武士沢さま>

 

それは夏に、自分の色素の薄い瞳を守るために買った物で、今はもう冬で、
しかも夜で。雪なんかも降っていて、サングラスなんかかけている私はかなり怪しい
ヒトだった。冬の夜にファミリーレストランの駐車場でサングラスを掛けた女が一人
突っ立っているのは確かに怪しいだろう。けれどレンズのせいで視界もないので人目
は気にならない。ちらちらと心細げに散る雪が肌に冷たいだけだ。
何となくそんな気分だったのだ。一人で輝く街の灯りを見たくなかったのだ。微かに
舞うだけの雪が余計に世界を美しく彩るような気がして、私は何も見えないまま暗い
空を見上げた。
どうするつもりなんだろう、楽園のない地上をきらきらと飾り立てて。

 
「聖」
突然、世界に光が戻ってきた。
「なんでこんなものかけてるの?」
蓉子が私のサングラスを指先でつまんでいた。
「あれ、蓉子いつ来たの」
「何言ってるのよ、今着いたの気が付かなかったの」
蓉子は親指で背後を指す。その先に黒いセダンが止まっていた。
「あれ、車の音は聞いたけど、蓉子だと思わなかった。買ったの?」
「ええ。どうして外で待ってるのよ、寒いでしょ」
「蓉子もこうして待っててくれたじゃない」
「そうだったわね」
とにかく車に入りましょ、と言って蓉子はサングラスを返して寄越した。
そうか車だからファミリーレストランで待ち合わせだったのか、と私は今さら納得し、
彼女のそうだったわねという返事の速さに内心ひどく驚いて蓉子の後に続いた。

蓉子の運転はスマートだった。
黒いセダンは実に滑らかに走る。エンジンも静かだ。車を褒めたらスイヘータイコー
ロッキトーがどうとか色々機嫌良く喋った。蓉子は割と凝り性なのだ。そう言えば昔
から些細な事にも根を詰める質だった。渋滞している道路に蓉子は苛ついた様子も
見せず、さすがクリスマスイブよねえと嘆息した。
 今日は聖なる夜なのだと言う。街は光に溢れている。数年前の今日、私は駅で同じ
街の輝きを見ていた。オレンジ色の電車を何度も何度も見送って、つめたい夜の空気
に凍えた後に。私はその時高校生で、酷く幼くて、恋に落ちていた。相手は一級下の
少女で、私たちは手を取り合って逃げる約束をした。知らない土地に行って、誰にも
邪魔されずに生きようと。その願いは叶う場所はきっと地上ではなかった。だから私は
こうしてここにいる。
 私は窓から目を離して蓉子の方を向いた。助手席から蓉子の横顔を見るのは初めてだ。
暗い車内でメーター類の灯りだけが蓉子を闇から浮かび上がらせる。
それは何だか幻想的で、彼女が知らない大人の女性に見えた。
それは間違いではないかもしれない。高校生の時のように毎日会っているわけではない。
蓉子について知らないことはたくさんある。蓉子は涼しげな瞳の中に本当は圧倒的な情熱を隠している。
抑えつけている。理想に何もかもを追いつかせようとしているその熱量はどこからくるのだろう。
嫌になることはないのだろうか。
「なあに?」
目を前から離さずに蓉子が言った。無遠慮に眺め回していたのはさすがにばれたらしい。
「ん?蓉子はキレイだなーって、見とれていたんだよ?」
「ありがと」
蓉子は全く取り合わなかった。私は嘘を言ったわけじゃないのに。
 −大切なものが出来たら、自分から一歩ひきなさい。
初めての恋が破れた後にもらったそのアドバイスを、私は今でも忠実に守っていた。
近づきすぎると自分も相手も、きっと壊してしまう。
「蓉子さ、デートの相手とかいないの?イブに私と新車でドライブなんて寂しくない?」
「あら、甘く見ないで。お誘いは引きも切らないのよ?ただ私としては別に今日
でなくてもいいというだけの話。」
「これは失礼いたしました。で、どこ行くの?」
イブは私とパーティをしよう、と言って誘ってきたから、当然蓉子の部屋に招待される
ものと思っていた。しかし車は全く違う方向へ進んでいる。市街地を抜けるとようやく
渋滞も緩やかになってきて、蓉子は少しづつアクセルを踏み込んだ。
「どこか遠くへ行ってみない?」
その答えは全く意外で、私は驚いた。細かく計画を立てていない蓉子なんて、どうかしてる!
私の驚きを意に介さず蓉子は薄く微笑んだ。
「ねえ、聖。風呂敷は壊れないし、硝子細工包むのに最適だと思うのよ」
「・・・は?」
「昔ね、お姉さま方が私のこと風呂敷だって言ったの」
「そのこころは」
「用途に合わせて便利に使える。邪魔にならない。壊れない」
私は声をあげて笑った。うまい。座布団二枚だ。
「で、聖は硝子細工ですって。酷い差よね。」
私は笑いを止めた。蓉子は信号に引っかかってスピードを落とした。
完全に車が止まると、蓉子は運転席に座ってから初めて私の顔を見た。
「私、丈夫で壊れないわよ?」
蓉子は微笑んでいた。けれど瞳を見たら、それを言えるようになるまで長い間
かかった、ということがわかってしまった。きっと、あの頃から今まで。
私からは近づくことが出来ないと分かっていて。
「だから、今夜は私と遠くまで行かない?知らない所に、二人だけで。」
 
 何年か前の今夜も、私は蓉子の隣で涙を流していたと思う。

無駄だと分かっていたけれど、泣き顔を蓉子に見られたくなくて窓の外に顔を向けた。
街路樹が暖かな色にライトアップされてそれが光の束のように流れていく。
イルミネーションが涙の中できらきらと光って、星くずのようだった。イルミネー
イルミネーれど、地上の星は美しく輝いていた。突然アラームが鳴り響き、蓉子が飛び切り
陽気な声で、力一杯叫んだ。私は十二月二十五日になって、自分が一つ年を取ったことを
知った。

 

END

 

 

Tea for twoで良質SSを公開していることでお馴染みの、コンバット武士沢さんから
頂いたマイ誕生日プレゼントSS。マリみての聖蓉子です!
細かいリクはせずに、とにかく聖蓉子で!と言ったら、こんなすごいSSが届きました。
この2人の大人な雰囲気(エロイ意味ではなく、会話とかが)がよく出ていて、本編で
普通にありそうな感じがしました。ウィットがあってインテリジェンスなSS書かせたら
武士沢さんはホンマにすごいです。他のSS読んだこと無い人はリンク張ってるんで
見に行った方がいいですよ!
いやはや、本当に素敵なものをどうもありがとうございました!

 


挿絵はこれ読んで妄想があふれ出てしまった管理人作です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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