「ほら見てみぃ、なつき。夕焼け綺麗どすえ」

日の落ちる生徒会室。真剣な顔で何かを調べているのか、パソコンから顔もあげようとしない
なつきに静留が話しかけた。
「静留、すまないが今大事な調べ物を・・・おい、こらこら！話を聞け！そして引っ張るな！！」
「ええからええから♪」
腕を引き、なかば強引に窓際まで連れていこうとする静留に文句を言いながらも、逆らう事が
出来ないなつきはそのまま窓際まで連れて行かれた。
「・・ったく、夕焼けなんていつもと一緒じゃないか。わざわざ見るようなものでも・・」
ぶつくさ言いながら、それでも静留と並んで窓から顔を出す。
深まる秋を感じさせる、憂いを含んだ風に、ふたりの長い髪が舞った。
「ほら・・綺麗やろ？」
静留の指し示す方向には、慣れ親しんだいつもの街並み。
寒い季節に向かおうとする空の色は澄んでいて、一層冴えて見えるオレンジ色の光に
なつきは目を細めた。
「・・・昨日も同じような夕焼けだったぞ・・・」
とりあえず悪態をつかないと気がすまないなつきがそう呟くと、隣の静留は微笑みながら言った。
「なつき、それはちゃいますえ。昨日と同じ景色なんてあらしまへん。
　うちらが生きとるように、季節も、何もかも生きとるんどす。生きとったら日々変化する。
　やから、今見とる夕焼けかて、今日しか見られへんのよ。」

透き通った明るい色の瞳が、なつきを見詰める。
いつも柔らかい光を湛える美しい眼差しが一瞬、真剣な光を帯びる。

「・・・なんや、ずっと調べもんとかしよって、あんまり休んでへんやろ？
　それに、色々悩んでる事もありそうやし・・・
　あ、心配せんでええよ。うちは、なつきが言いたない事聞かへんから。
　ただな、そないにずうっと気ぃ張りよったら疲れてしまいますやろ？
　せやさかい、たまには、綺麗なもんで心ん中いっぱいにするんもええと思いますけどな。」

一体、どれだけのことを静留には見透かされているんだろう。

いつもそうだ。
なつきが見向きもしないようなことを、だけれども、そんななつきにこそ必要なことを
静留は見抜いて、なつきに与えようとする。

例えば、人と接する事を拒んだ日。
どんなに拒絶しても、静留は今と同じような笑顔で、ただ傍に居てくれた。
「なつきと居ると自分が楽しいから」と、笑いながら言い、積極的にかかわってくれた。
静留の接し方は、これまでなつきの周りに居た、義務や、自己満足の同情心で接する人間とは
どれも違っていて、始めの頃はひどく驚き、うとましくも感じたが、その気持ちはやがて消え
心の中が暖かいもので満たされるのを実感していた。
そして、今、この瞬間も。

「・・・静留の言うとおりだ。確かに昨日よりも綺麗な夕焼けだな。」
「そうどすやろ？冬に近づくと空気が澄みますさかいなぁ。空の色がほんま綺麗わー」
なつきが顔をほころばせると、静留は嬉しそうに微笑んだ。
時折どきりとさせられる、輝くような極上の笑顔で。

―　お前の言うとおり、全然違って見えるよ、静留。
―　だけど、こんなに今日の夕焼けが綺麗に思えるのは・・・
―　お前が、傍にいるからなんだ。きっと・・・

「ありがとうな。静留」
「なんやの、急に」
「いや別に。私が言いたかったから言っただけだ」
「そうどすか。ほな有難く頂いときますわ。でも、うちとしては言葉より行動の方が嬉しおすなぁ」
「何だ行動って」
「感謝を伝える行動なんて色々ありますやろ。例えばほっぺたにチューとか」
「絶対するか！！」
「いやー、例えや言いましたやん。何赤うなってはるん？相変わらずかいらしい人どすなぁ」
「うるさい！！」

―　お前が私と居ると楽しい、そう言ってくれたように、私もお前の傍に居るのが楽しいんだ。
―　だからこそ、お前には知られたくないんだ。巻き込みたくないんだ。
―　あの星が見えない、お前には・・・

なつきは空を見上げた。
忌まわしい運命の元凶である媛星は、同じ場所で妖しく輝いている。
そんななつきの様子を、いつもと同じ穏やかな表情で静留は見つめていた。

・・・すべてを見抜いたかのような、そんな顔で・・・

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絵に合わせて話を書いてますので、かなり無理矢理感漂う感じなのですが・・
旧絵を普通に公開するよりは、なんかオマケがあったほうがええかなーと
思ってSS付けました。SSは難しいですね・・・