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「・・つき、なつき・・・」

柔らかい声が遠くに聞こえる。懐かしいような、暖かい響き。
心地よかったのでしばらくまどろんでいたら、軽く身体を揺さぶられた。
やれやれ・・と、気だるそうに瞼を上げたら、目の前いっぱいに良く知った顔があった。


「おはよう・・・静留」


額に載せられてたタオルを、脇に置いてある洗面器の水に浸し、固く絞って顔を拭ってくれる。
水も替えてあるのだろうか。
絞ったタオルは冷たくて、さらりとしたパイル地が汗ばんだ肌に心地よかった。


「具合はどうどすか?」


2日前の晩だった。学内に現れたオーファンと戦っていたときに不意をつかれて捕まり
そのまま叩きつけられた先がプールだった。
地面に叩きつけられなかっただけマシと言えばマシだが、今の季節は冬。
デュランの力を借りてオーファンを屠ったあと、ずぶぬれのままバイクで帰宅。
熱いシャワーを浴びて服を着替え、予防にと風邪薬を飲んで寝たときには既に遅く・・
翌朝、実にお約束どおり風邪を引き、今に至っているわけである。


「うー・・・あまり大丈夫でもなさそう・・だ・・・」
「おかいさん炊いたんやけど食べれそうどすか?お腹になんか入れんと薬飲まれへんよ?」
何となくいい匂いがすると思ったら、静留の傍らに湯気をたてるお粥の入った鍋が置いてあった。
食欲が無いはずのお腹がきゅうっと控えめに自己主張した。
「・・そうだな・・・朝から何にも食べてないから、食べないとな・・いつつ・・」


体中の節々が痛い。頭の芯がずきずきして、起き上がるだけなのにどうもふらふらする。
もうこれは立派で本格的な風邪だ、間違いない。


「なつき!大丈夫どすか?・・・あらあら、起きるんも辛そうやねぇ。そや!うちが食べさしたろか?」
「い・・いいっ!自分で食べられる!!・・げほ!ごほげほっ!!」
「ほぉら言わんこっちゃない。病人さんはおとなしゅう言う事聞くもんどすえ?」
「うるさい!さっさと椀とれんげを貸せ!!」
「はいはい、こない元気なんやったら、買うてきたお葱さん必要なさそやねぇ」
「!!!!」
「必要にならんように、ぎょうさん食べてはよ風邪治さなあきまへんえ♪」
睨みながら差し出す椀を奪うと、静留はにっこり微笑んだ。


「美味かった。ごちそうさまでした」


お世辞ではなく本当に美味かった。
前に風邪を引いて寝込んだときに、舞衣が作ってくれたのも美味かったが、静留のはまた違った
美味さだった。これが舞衣の言っていた、家庭の味というやつか。
私の、知らなかった味・・・ようやく分かり始めた、味。


「よろしゅおあがりー。だいぶ目に力が戻ってきた感じやねぇ。熱はどない?」
「あ、そういえば起きてから計っていない」
枕もとの体温計を取ろうと、身体を起こしかけたら、やんわりと押し戻された。
「静・・・」
そのまま布団に押し付けられ、名を呼ぶ私の唇に、人差し指が当てられた。
「そんなん使わんでも、熱あるかないかすぐ分かりますえ?」


視線がぶつかる。
急に心臓が暴れだす。


「な・・何を!?」
近づいてくる静留の顔。
「や・・やめろ・・!」


こつん・・・


見開いた眼前に、伏せられた静留の長い長い睫毛が見えた。
こんな至近距離で静留を見たことはない。
通った鼻。綺麗な肌。美しい顔。
綺麗なものを至近距離で見て意識するなと言われてもそれは無理な話で
触れ合った額が分かりやすく急に熱を持つ。
そしてそれは、額をくっ付け合っている静留にも伝わるわけで・・


「あかん、なつきえらい熱やわ!」
「ええっ!?」
例の葱の恐怖が脳裏を掠めた。なにがなんでもあれだけは拒否しなくてはならない。
また恥ずかしい臀部の薬をドラッグストアに買い求めにいくのはご免だ。ぜひご勘弁願いたい。
「ち、違うぞ!絶対違う!!これは熱だけど、その熱じゃないんだ。しず・・」
また唇に指を当てられて言葉をさえぎられた。
「なつき、お葱さんなんかより、はよぅ良うなる、ええ方法がありますえ?」
ゆっくりと、綺麗な顔が近づいてくる。
「知っとる?風邪ってなぁ。人にうつすんが一番はよぅ治るって・・・」
長い睫毛に縁取られた赤茶色の瞳に妖しい光を宿しながら、私との距離を詰めていく。
「うわーやめろまてはやまるなしーずーるー!!!」
「逃がしまへんえー!!」
「や、やめっ、うつ、うつるっ!」
「せやから、なつきを苦しめとる風邪をもらったるんやないの」


弱りきった私の力では、至って健康な静留にかなうはずも無く・・・・

 


そして翌朝。
「さんじゅうろくどさんぶ・・・」
「な?うちの言うたとおり、はよぅ治ったやろ?」
「って・・・なんでお前はケロッとしてるんだ・・静留・・・」

 

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よくある風邪の話。
お尻に葱、はさすがに経験ないけど、民間療法は確かに効きます。
目ばちこ(ものもらい?)が出来たら、あずきを用意して「目いぼやと思ったら
あずきやった」って唱えながらあずきを井戸に投げ捨てると治ると教えられ
私も子供の頃よくやられました。本当に治るんですよ!!
ただ、井戸がないと出来ないんで、今やるのは難しそうですがー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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